東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)37号 判決
事実及び理由
一 原告の請求原因一ないし三は、当事者間に争いがない。
そこで本件審決に、これを取消すべき瑕疵があるかどうかについて判断する。
二 原告は、まず、第二引用例には単なる係合の技術思想はあつても、本件考案におけるような後ガードのごとき用途、機能をもつ他の部分まで一緒に係合するという技術思想はなんら示唆されていないのに、これから本件考案の構成を容易に推考できるとした審決はその判断を誤つていると主張する。
しかしながら、第二引用例(その図面は別紙に添付)は、管伸縮自在接手に関するものであり、パツキング函(5)の係合突起(6)と円筒状接合体(1)の傾斜係合面(3)との係合により管を容易且つ迅速に連接することができるようにしたいわゆるバヨネツト結合(成立について争いのない乙第三号証参照)が示されており、しかも円筒状接合体(1)の端部とパツキング函(5)との間に、管の結合そのものを目的とするものでないこと明らかなパツキング(b)を締付けるようにしたものであることが看取できるところであるから、第二引用例には他の部分まで一緒に係合するという技術思想は示唆されていないとする原告の主張は理由がない。
のみならず、本件考案出願前公知となつた、成立について各争いのない乙第一、二号証によれば、バヨネツト結合においては、直接係合にあずかる部品以外の部品をも同時に係合するものが本件考案出願前から知られており、右乙号証の各発行年度等を勘案すれば、むしろ右のことは周知のことであつたものと認定することができる。バヨネツト結合が、「たがいに固定しようとする構造部品の一方を、はじめ他方の部品にはめこんだのち、前と直角方向に回転させたり、すべらせたりして組立てる分解容易な結合のこと」(乙第三号証の三第一八三頁)と定義されるとしても、そのバヨネツト結合には他の部品をも共に係合させるという技術思想は含まれないとの原告の主張はなんら根拠もないものである。
三 原告は、第二引用例記載のものは、周知のバヨネツト結合とは異なる特殊な技術に属するものであり、また管継手としてもきわめて特殊なものであるから、このような技術をその分野を全く異にする本件考案に転用し得るとした審決の認定は誤つていると主張する。しかしながら、審決(成立について争いのない甲第一号証)は第二引用例を示すまでもなく、バヨネツト結合は従来周知であり、そのバヨネツト結合を、第一引用例に記載された扇風機の保護枠着脱装置のナツトに代えて、本件考案のような保護枠着脱装置にすることは、当業者がきわめて容易に考案することができたものと認めたものであることが認定できるから、第二引用例(それがバヨネツト結合のものではないという証拠はない。)が管継手としては特殊なものであるからといつてこれを引用して判断した審決には誤りはない。原告の主張は、理由がない。
四 原告は、被告の、バヨネツト結合も、ナツトによるねじ結合も、結合手段として同一の分野に属するから、第一引用例のナツトによる係脱機構に代えるに第二引用例記載のバヨネツト機構をもつてすることは容易であるとの主張を非難し、ナツトとねじという結合(螺合)手段は取付補助具としての機能をもつのに対し、バヨネツト結合は係合関係にある二部材自体を直接且つ相互に締付け、固定するという結合手段であつて、ねじのように取付補助具としての機能は本来有していないから両者は異なるものであり、従つて両者を転用可能であるとするのは誤りであると主張する(第四の一)。しかしながらねじ結合(螺合)は単に取付補助の手段としてのみ用いられるとはいえない(バヨネツト結合もねじ結合と同様に、取付の補助手段として使用されることがあると同じく、ねじ結合もバヨネツト結合と同様に、直接結合の目的に用いられることのあることは、むしろ技術常識であるといえる。)のみならず、仮にねじ結合が原告主張のように単に取付補助の手段としてのみ用いられ、その点でバヨネツト結合とは異なる点があるとしても、その相違があるからという理由で、第一引用例に記載された扇風機の保護枠着脱装置のナツト(及びねじ)に代えるに、第二引用例に記載のようなバヨネツト結合を用いて、本件考案のような保護枠着脱装置にすることが容易に考えつくものでないということはできない。しかも、ねじ結合もバヨネツト結合も、結合手段として同一の分野に属する(特に本件考案における結合手段との関係において)ものとみてよいことは乙第三号証の記載をまつまでもなく明らかというべきである。審決のこの点に関する判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
五 原告は、本件考案は扇風機のガード着脱装置として第一引用例のごとき単一ナツトの締付けによるものの難点を解消し、これによつて第二の四の(二)の(1)ないし(7)のような特段の作用効果を発揮する旨の主張をする。
第一引用例に記載された保護枠着脱装置のナツト(及びねじ)に代えるに、第二引用例に記載のようなバヨネツト結合を用いて、本件考案のような保護枠着脱装置にすることは、当業者ならきわめて容易に考案することができたものと認めた審決の判断が是認できることは上来説明してきたところからおのずから明らかである。原告が前記(1)ないし(7)で主張する本件考案の作用効果は、バヨネツト結合が本来具有する作用効果であつて、本件考案がバヨネツト結合を採用したことによる、通常のバヨネツト結合が有するのとは異なる特段の作用効果ではないと認められる。
原告は、前記(3)でいう効果、すなわちワンタツチ式に後ガードを固定できるという効果は、周知のバヨネツト結合が有する効果以上の効果、すなわち、係脱部材以外の他の部材、本件考案でいえば扇風機のガードを(電動機フレームに対し)ワンタツチ式に着脱できるようにした効果であると主張するが、バヨネツト結合において、直接係合にあずかる部品以外の部品をも同時に係合する技術が本件考案出願前から周知であつたことが前認定のごとくである以上、原告の主張するような効果は、本件考案において特段のものであるということはできない。
原告はまた、本件考案の着脱装置は、電動機フレームの筒状部にガード取付脚を嵌合させたのち、締付けリングを取付脚に当るまで一挙に嵌挿することによつて取付脚を仮止めし、仮止めした取付脚は締付リングのわずかな回動により、その仮止め位置において一挙に最終的な取付固定が行われるため、ガードを片手で保持する必要もなく、ガード着脱作業は全体的にきわめて容易且つ迅速、強固に固定されるという効果を有する旨の主張をする。原告主張のような効果は、バヨネツト結合を有する他の例、例えば前掲乙第一、二号証記載のような装置も当然有する効果であつて、本件考案が有する特段の効果であるとは認められない。仮に本件考案が、他のバヨネツト結合装置が有しない右の原告主張のような効果を有するとしても、そのような効果は、そのことで本件考案を引用例からはきわめて容易に考案することができたものではないとするほどの特段の効果ではないというのが相当である。
六 右のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき瑕疵が見出せないから、原告の請求を棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
(A) 前部外周に締付舌片を有する筒状部を設けた電動機のフレームと、
(B) 該フレームの筒状部に嵌合され取付脚を有する後ガードと
(C) 前記フレームの筒状部に嵌合され締付舌片に係合する斜面を有する締付リングとを備え、
(D) この締付リングを回動させることにより前記取付脚と締付舌片との間にその斜面を係脱するようにした
(E) 扇風機のガード着脱装置